株式会社コギト
2017年12月

人工知能(AI)で沖縄のヤシガニを個体識別。
沖縄美ら島財団の研究グループが独自の調査記録システムを導入。

生物の生息調査に不可欠な個体識別をテーマとして、人工知能の活用事例をご紹介します。
ヤシガニはインド太平洋の熱帯域から亜熱帯に生息する、陸上最大の甲殻類ですが、乱獲や生息地の減少により絶滅を危惧されています。 約50年という長い寿命を持つヤシガニの生態をより詳細に知るためには、長期間追跡する必要があり、今回ご紹介するような個体識別の能力を持つAIシステムは有効な手段だと言えます。

システム開発に至る経緯と仕組み
ヤシガニ 沖縄美ら島財団の研究グループでは海洋博公園(沖縄県本部町)に生息するヤシガニの生息実態調査を2006年から継続的に実施している。 (写真提供: 一般財団法人 沖縄美ら島財団) 沖縄美ら島財団の研究グループでは、2006年から海洋博公園(沖縄県本部町)に生息する野生のヤシガニの生息調査を継続して実施しているが、発見したヤシガニの個体を過去の情報と照合する為には、それぞれを識別する必要があった。 しかし、ヤシガニは脱皮を行うことから、タグを付けたり印をペイントしても効果がなく、この識別作業は熟練した特定の研究者の目視で行っているというのが現実。 現在、蓄積しているヤシガニの情報は400匹以上になるため、 熟練者にとっても大変な作業となっていました。 そこで、この課題に対して人工知能(AI)を活用したシステムを考案、大阪大学サイバーメディアセンター(大阪府吹田市)と株式会社コギト(京都市)が共同研究を行い、専用システムが完成しました。 研究グループ独自の識別技術(新技術)をシステム化できた事から、当システムは今後の生息調査促進と後継者となる研究員の育成に役立つものと期待されます。

個体識別の仕組み ヤシガニは脱皮をしても甲羅の紋様が変わらないことから、この甲羅の紋様で個体を自動的に識別する仕組みを採用しています。 生体へのタグ付けやチップの埋め込みの必要もなく、生体を傷つけることなく識別できる点は重要なメリットです。 システム操作画面(写真)では撮影した個体の写真から、過去の発見情報を照合、該当または類似する個体の情報を確認しながら、生体の大きさなど調査内容の記録と管理をします。
ヤシガニの文様
甲羅の紋様を利用してAIが自動的に識別する。    
(写真提供: 一般財団法人 沖縄美ら島財団)
紋様識別システム

システムの導入について
沖縄美ら島財団の研究グループに、お話をお伺いしました。

システム導入の理由と目的
沖縄美ら島財団 岡慎一郎
■代表研究者■ 岡慎一郎(おかしんいちろう):
琉球大学卒理学博士。環境調査会社勤務を経て、2010 年(財)海洋博覧会記念公園管理財団(現在は一般財団法人沖縄美ら島財団に名称変更)入社。
専門は水生生物の生活史研究。
 
私たちは2006年から海洋博公園に生息するヤシガニの生態調査を行ってきました。本種の生態を把握する上で,甲羅の模様による個体識別は非常に大きな役割を担っていましたが,人力でやっていたため熟練と多大な時間を要していました。そこで,近年急速に発展している画像認識プログラムを導入すれば,簡素化だけでなく,科学に最も重要な正確性と客観性も大きく向上すると考えました。  
導入の感想  
個体の情報が個別にカルテのように管理でき,さらには情報をキーワード検索し,データシートとして出力できるのはとても便利です。 認識システム自体の精度はまだ100%とは言えませんが,初めてトライすることですし,実践を通しつつプログラムの調整やディープラーニングを繰り返すことで,近いうちに格段に精度が上がると期待しています。  
今後の展開等
絶滅危惧種のヤシガニを守るためには,保全や適切な資源管理が不可欠です。しかしこのような取り組みの計画策定や効果検証には資源の現状の把握が必要です。特に個体識別によって得られる生態情報は,内容も精度も重要なものが多く含まれます。甲羅の模様による個体識別には特別な機器も不要で,カメラさえあれば実現可能です。このシステムが各地で導入されれば,世界的にも絶滅に近づいているヤシガニの保全に大きく貢献できるはずです。このシステムを活かした私たちの研究をモデルケースとしてとらえ,単に研究の発展だけでなく,様々な形での情報発信にも注力していきたいと考えていきます。


【参考】 一般財団法人沖縄美ら島財団ヤシガニの調査に関するプレスリリース

甲殻類最強!ライオンの咬む力に匹敵?ヤシガニ驚きのハサミの力
http://churashima.okinawa/pressrelease/detail/1029
追跡11年!海洋博公園のヤシガニ
http://churashima.okinawa/pressrelease/detail/1272
寿命は約50年?北限域のヤシガニの成長や寿命を解明
http://churashima.okinawa/pressrelease/detail/493

当システムの開発チームでは、クジラやペンギンなど、他の生物の個体識別や分類技術へ応用したシステムも企画中です。 また、水族館・動物園の入場者が楽しめるインタラクティブなアプリの開発も検討しておりますので、 ご興味のある方は、下記までお問い合わせ下さい。

システムに関するお問い合わせ:

  株式会社コギト http://www.cogito.co.jp
  システムソリューション部 (担当: 裏谷)
  TEL:075-255-9801

  〒604-8155
  京都市中京区錦小路通烏丸西入ル占出山町311アニマート錦5F